マシンビジョンとは?仕組みや活用事例、ソリューションを解説

マシンビジョンとは、人間の「眼」の機能を機械で代替する技術です。
カメラで捉えた画像をコンピュータが解析し、対象物の状態を認識・判断します。例えば、工場の生産ラインにおける製品の欠陥検査や、ロボットによる部品のピッキングなどが代表的な例です。

この技術は、FA(ファクトリーオートメーション)分野を中心に、品質向上や生産性向上に貢献するソリューションとして広く導入されています。
本記事では、このマシンビジョンの仕組みから具体的な活用事例、さらには導入に役立つソリューションの選定ポイントまでを網羅的に解説します。

マシンビジョンとは?人間の「眼」の代わりとなる技術を解説

マシンビジョンとは、英語の「MachineVision」が語源であり、機械に人間と同様の視覚機能を持たせる技術全般を指します。
具体的には、カメラなどの撮像装置で取得した画像情報をコンピュータで解析し、対象物の特徴を抽出して良否判定や識別などを行います。

類似技術にコンピュータビジョンやロボットビジョンがありますが、マシンビジョンは特に産業用途での自動化や品質管理を目的としたシステムを指す場合に用いられることが多いです。
ロボットビジョンは、マシンビジョンを産業用ロボットの制御に応用したものと位置づけられます。

マシンビジョンシステムを構成する4つの基本要素

マシンビジョンシステムは主に4つの基本要素で構成されています。
FAなどの現場で安定した性能を発揮するため、各要素には耐久性や精度が求められ、マシンビジョン用の製品が用いられます。

これらの構成要素はそれぞれが連携して機能することで高精度な認識・判断を実現します。
また、構成要素間の接続にはGigEVisionやUSB3Visionといった世界的な規格が利用されることもあり、異なるメーカーの機器を組み合わせたシステム構築を可能にしています。

1. 撮像(カメラ):対象物を正確に捉える

マシンビジョンにおける撮像は、人間の眼の水晶体に相当するレンズと、網膜に相当するカメラ(センサ)が担います。
対象物を正確に捉えるためには、検査対象や目的に応じたカメラとレンズの選定が不可欠です。

カメラの性能は、光を電気信号に変換するイメージセンサの種類やセンサーサイズ、画像の精細さを示す解像度などによって決まります。
近年では、平面的な情報だけでなく、高さや奥行きを捉える3Dカメラの活用も増えています。
また、カメラとPCを接続するケーブルには、データ転送速度や安定性に関する規格が存在し、システム全体の性能に影響を与えます。

2. 照明(光源):検査精度を左右する重要な要素

照明(光源)は、対象物の特徴を最大限に引き出し、検査精度を安定させるための極めて重要な要素です。
外乱光の影響を抑え、常に一定の環境で撮像するために不可欠となります。

照明にはリング型、バー型、ドーム型など様々な形状の製品があり、対象物の材質や形状、検出したい欠陥の種類に応じて最適なものを選択します。
また、色の種類も豊富で、特定の波長の光を当てることでコントラストを強調できます。
さらに、表面の光沢を抑えるための偏光フィルタや、特定のパターンを照射するレーザーなど、特殊な照明技術も目的に応じて使い分けられます。

3. 画像処理(ソフトウェア):取得した画像を解析する

画像処理は、マシンビジョンシステムの頭脳に相当する部分であり、専用のソフトウェアがその役割を担います。
カメラから送られてきた画像データに対し、ノイズ除去や明るさの補正といった前処理を施し、解析に適した状態に整えます。

その後、エッジ検出やブロブ解析といった手法で対象物の特徴量を抽出し、パターンマッチングや文字認識、寸法計測などの処理を実行します。
このソフトウェアによる解析を通じて、製品の良否判定や位置決めといった判断が行われます。
近年では、AI技術、特にディープラーニングを活用したソフトウェアも登場し、より複雑で高度な判定が可能になっています。

4. 出力(制御):解析結果を他の機器へ伝える

出力は、画像処理ソフトウェアによる解析結果を生産ライン上の他の機器へ伝達する最終段階です。
例えば、欠陥を検出した場合は「NG」の信号を送り、その製品をラインから排出する装置を作動させます。

また、対象物の位置や角度といった座標情報を算出し、そのデータを産業用ロボットのコントローラに送信することで、正確なピッキングや組み立て作業を自動化します。
この出力・制御のプロセスを通じて、マシンビジョンは単なる検査装置にとどまらず、FAシステム全体と連携して生産性の向上に貢献します。
信号の伝達には、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)やPCが介在することが一般的です。

マシンビジョンにおける画像処理の具体的な3ステップ

マシンビジョンは、「撮像」「画像処理」「出力」という一連のステップを経て、対象物の認識や判断を行います。
このプロセスは、人間の視覚情報処理と似ており、各段階で正確な処理を実行することがシステム全体の精度を左右します。

特に、実世界の寸法と画像のピクセルを対応させるキャリブレーションは、高精度な計測を行う上で欠かせない工程です。
ここでは、画像データが取り込まれてから、最終的に制御信号として出力されるまでの具体的な流れを3つのステップに分けて解説します。

ステップ1:対象物の画像をデジタルデータとして取り込む

最初のステップは、カメラとレンズを用いて対象物の光学像を結び、イメージセンサで光の強弱を電気信号に変換することです。
このアナログ信号は、カメラ内部あるいは画像入力ボード(フレームグラバー)によって、コンピュータが処理できるデジタルデータに変換されます。

このデジタル化された画像は、ピクセルと呼ばれる小さな点の集合体として表現され、各ピクセルの明るさや色の情報が数値データとして保存されます。
この段階で、照明の当て方やカメラのピント、解像度の設定が不適切だと、ノイズが多く不鮮明な画像となり、後続の解析処理の精度に大きく影響するため、最適な撮像環境を構築することが重要です。

ステップ2:画像データをアルゴリズムで解析・処理する

次に、取り込んだ画像データに対して、画像処理ソフトウェアが様々なアルゴリズムを適用して解析を行います。そして画像の明るさやコントラストを調整したり、ノイズを除去したりする「前処理」を施し、解析しやすい状態に整えます。
続いて、検査目的に応じたアルゴリズムを用いて、対象物の輪郭(エッジ)や傷、汚れといった特徴を抽出します。例えば、事前に登録した良品の画像パターンと比較する「パターンマッチング」や、特定の色の面積を計測する「ブロブ解析」などの手法が用いられます。
この解析によって得られた数値データをもとに、あらかじめ設定された"しきい値"と比較し、良否判定や分類が行われます。

ステップ3:処理結果に基づき信号を出力し装置を制御する

最後のステップでは、画像解析によって得られた判定結果(OK/NGなど)や計測値(寸法、位置座標など)に基づき、外部の装置を制御するための信号が出力されます。
例えば、製品検査で「NG」と判定された場合、その製品をラインから排除するための信号がソレノイドバルブやリジェクタに送られます。
また、部品の位置情報を検出した場合は、その座標データが産業用ロボットのコントローラに送信され、ロボットアームが正確に部品を掴むための動作指令となります。

このように、解析結果を具体的な物理的アクションに結びつけることで、生産工程の自動化や品質管理が実現されます。

【分野別】マシンビジョンの主な活用事例

マシンビジョンは、その高速かつ正確な認識能力から、ファクトリーオートメーション(FA)をはじめとする多様な分野で活用されています。
従来は人間の目に頼っていた作業を代替・支援することで、生産性の向上、品質の安定化、人手不足の解消などに貢献しています。

ここでは、具体的な用途を「製造業」「物流業界」「医療分野」「農業」の4つの分野に分け、それぞれの現場でマシンビジョンがどのように役立っているのか、代表的な活用事例を紹介します。

製造業:製品の欠陥検査や組み立て工程の自動化

製造業はマシンビジョンが最も広く活用されている分野です。
代表的な用途として、製品の外観検査が挙げられます。
電子部品の基板上の傷や汚れ、食品への異物混入、印刷物のかすれなどを高速かつ高精度で検出し、不良品の流出を防ぎます。
また、部品の寸法や形状が規格通りかを確認する寸法検査、賞味期限やロット番号の印字を読み取る文字認識検査も自動化されています。

さらに、産業用ロボットの「眼」として機能させ、コンベア上を流れる部品の位置と向きを正確に認識し、ロボットアームで掴んで組み立てる「ピック&プレース」といった工程の自動化にも不可欠な技術となっています。

物流業界:荷物の仕分けやバーコードの読み取り

物流業界では、日々大量に取り扱われる荷物の管理と仕分け作業の効率化にマシンビジョンが貢献しています。
コンベア上を高速で流れる荷物に貼られたバーコードやQRコード、宛名ラベルの文字情報をカメラで瞬時に読み取り、配送先ごとに自動で仕分けるシステムは、物流センターの基幹技術です。
これにより、作業の高速化とヒューマンエラーの削減を両立させています。

また、3Dカメラを用いてパレットに積まれた段ボール箱の形状や位置を認識し、ロボットが自動で荷降ろしを行う「デパレタイズ」の自動化も進んでいます。
荷物の体積を自動計測し、最適な配送プランを算出するシステムにも活用されています。

医療分野:細胞の画像解析や診断支援

医療分野においても、マシンビジョンは診断の精度向上や研究の効率化に貢献しています。
例えば、顕微鏡で撮影した血液や組織の画像を解析し、細胞の数を自動でカウントしたり、がん細胞のような特定の細胞を検出したりするシステムに活用されています。
また、X線画像やCT、MRIといった医用画像から、医師が見落とす可能性のある微細な病変を検出して注意を促す、診断支援システム(CAD)の開発も進んでいます。

研究分野では、創薬プロセスにおける化合物の効果測定や、再生医療分野での細胞の培養状態の監視などにも応用されています。
医薬品の製造ラインにおける錠剤の欠けや異物混入の検査にも不可欠な技術です。

農業:農作物の品質選別や生育状況の監視

農業分野では、熟練者の経験と勘に頼っていた作業をデータに基づいて自動化する「スマート農業」の実現に向けて、マシンビジョンの活用が進んでいます。
収穫された野菜や果物をカメラで撮影し、その色や形、大きさ、傷の有無などを瞬時に判別して、等級ごとに自動で選別する装置が広く導入されています。
これにより、選別作業の省力化と品質の均一化が図れます。

また、ドローンや圃場に設置したカメラで撮影した画像を解析し、作物の生育状況を広範囲にわたって監視することも可能です。
葉の色の変化から栄養状態を把握したり、病害虫の発生を早期に発見したりすることで、収穫量の増加や農薬使用量の削減に繋がっています。

マシンビジョン導入を成功させるための選定ポイント

マシンビジョンシステムを導入し、期待通りの成果を得るためには、検査対象や目的に対して最適な機器を選定することが極めて重要です。
単に高性能な機器を導入するだけでは十分ではなく、カメラ、レンズ、照明、そして画像処理ソフトウェアといった各構成要素を、撮像環境や検出したい特徴に合わせて適切に組み合わせる必要があります。

ここでは、システムの導入を成功に導くための、主要な構成要素ごとの選定ポイントを解説します。

検査対象と目的に合わせたカメラ・レンズの選定

カメラの選定では、まず検出したい欠陥の細かさに応じて必要な「解像度」を決定します。

また、生産ラインの速度に合わせて、十分な撮像速度(フレームレート)を持つカメラを選ぶことも重要です。

傷や汚れの色情報が必要な場合はカラーカメラを、コントラストが重要で高速処理が求められる場合はモノクロカメラを選択するのが一般的です。

レンズは、撮像したい範囲(視野)とカメラから対象物までの距離(作動距離)から、適切な「焦点距離」を持つものを選びます。

画像の歪みが少ないテレセントリックレンズなど、目的に特化したレンズの選定も精度向上に繋がります。

これらの要素を総合的に考慮し、検査対象と目的に最適な組み合わせを見つけることが不可欠です。

撮像環境を最適化する照明の選定

照明の選定はマシンビジョンシステムの成否を分ける最も重要な要素の一つです。
その目的は検査したい特徴(傷、凹凸、刻印など)を最も見やすい状態にし周辺の明るさの変化といった外乱光の影響を排除することにあります。
例えば曲面を持つ対象物にはドーム照明を用いて均一な光を当てる、金属表面の刻印を読み取る際には低い角度から光を当てるローアングル照明を用いるといった工夫が必要です。

また特定の色の光を当てることで対象物と背景のコントラストを強調することも可能です。
テスト撮影を繰り返し対象物の材質や形状検出したい欠陥の種類に対してどの照明が最も効果的かを見極めるプロセスが欠かせません。

目的に応じた画像処理アルゴリズムの選択

画像処理ソフトウェアは、撮像した画像からどのようにして必要な情報を抽出するかを決定する要素です。
寸法を測りたいのか、良品の見本と比較したいのか、文字を読み取りたいのかといった目的に応じて、適切なアルゴリズムや機能を持つソフトウェアを選ぶ必要があります。
多くのソフトウェアは、ブロブ解析、パターンマッチング、寸法計測、文字認識(OCR)といった標準のツールを備えています。

一方で、傷の判定基準が曖昧であったり、様々なパターンの不良が混在したりするような複雑な検査では、従来のルールベースの手法では対応が困難な場合があります。
そのようなケースでは、良品・不良品の画像を学習させることで判定基準を自動で構築する、AI(ディープラーニング)を搭載したソフトウェアの選択が有効です。

マシンビジョン市場の現状と今後の技術的な展望

マシンビジョン市場は、世界的な人手不足や製品に対する品質要求の高まりを背景に、着実な成長を続けています。市場規模は拡大傾向にあり、多くの企業がシェア獲得を目指して製品開発に注力しています。

特にFA分野での需要が市場を牽引していますが、物流や医療、農業といった非製造業分野への応用も広がっています。
今後は、AI技術のさらなる進化や、3Dビジョン、不可視光を利用したセンシング技術の普及により、マシンビジョンが解決できる課題はさらに拡大していくと予測されます。

まとめ

マシンビジョンは、カメラや照明、画像処理ソフトウェアを組み合わせ、人間の視覚機能を機械で代替する技術です。そのシステムは、対象物を撮像し、得られた画像データをアルゴリズムで解析、結果を外部機器に出力するというプロセスで機能します。

主な活用分野は製造業における製品検査や工程の自動化ですが、物流、医療、農業など非製造業への応用も拡大しています。
システムの導入にあたっては、検査対象や目的に応じて各構成要素を最適に組み合わせることが性能を最大限に引き出す上で重要です。
AIや3D計測といった先進技術との融合により、マシンビジョンは今後さらに多様な産業分野で、より高度な課題を解決する基盤技術としての役割を担っていくと考えられます。

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